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(上川町)田崎 充彩 さん

業務とライフワーク、どちらも大切にしながら自分の道を探す

田崎さん

地域おこし協力隊は、叶えたい夢がある人のためだけの制度ではありません。たとえば、田舎ぐらしがしたいとか、地元の人に惹かれてとか、さまざまな動機があってよいのです。「やりたいことがわからなくてもいい。任期中にやりたいことを見つける努力が大事」。そんなスタイルで上川町にやってきた田崎充彩(あつや)さん。この場所で何を見つけたのか、話を聞きました。

 

シーズンワーカーから、地域に根ざした定住生活へ

田崎さん

旭川から車で約1時間。大雪山国立公園の中にある有名な温泉地、層雲峡を有する上川町にやってきました。上川町は近年、若い移住者で盛り上がりを見せる町。地域おこし協力隊の卒業生だけでなく、地元の人や、Uターンで町に戻ってきた方による個性豊かな店が次々と増えています。それにより町の魅力がアップして、さらに若者たちが集う町になっているのです。「アウトドアプロデューサー」という肩書きで活動する地域おこし協力隊の田崎さんも、この町の人々に惹かれて移住してきました。

 

もともと、シーズンワーカーとして岐阜県の日本アルプスにある山小屋に勤めていた田崎さん。層雲峡で宿を営む友人に「上川町でアウトドアプロデューサーをやりたい人を探している」と声をかけられました。

 

興味はあったものの、まずは上川町を体験するため短期間のキャンプ場スタッフとして遊びに行くことに。そこで出会った協力隊の友人たちと、一緒に仕事をしたり、休日に遊んだり。町を歩けば、おじいちゃんおばあちゃんと接する機会があり、居酒屋に行けば、地元の人との交流がありました。大学を中退後、そのままずっと山小屋で働いていた田崎さんにとって、突然世界が開けたような新鮮さがありました。上川町に集う同世代の人たちと、もともといる地元の人たちの温かさに触れ、いつの間にか去りがたくなるほど町に愛着が芽生えていたと言います。

 

後ろ髪を引かれながらも、一度山小屋に戻った田崎さん。ちょうど、住む場所を転々とする働き方に飽きがきていた頃でした。しっかりと一つの場所に腰を据えて、数年後の目標に向かって歩みを進めるような暮らしをしてみたい。上川町へ定住したい思いは確かなものになっていました。

 

業務とライフワーク、どちらも大切にしながら

田崎さん

そして2022年、山小屋勤務という経験を活かして上川町のアウトドアプロデューサーに就任。現在は、アウトドアツアーのガイドをしたり、プログラムを企画したり、層雲峡の近くにある「層雲峡オートキャンプ場」のスタッフとして勤務しています。

 

本業以外の活動にも積極的に取り組む田崎さん。昨年から始めた「本と珈琲と〇〇」というマルシェイベントは、2023年8月末時点で10回目を数えました。滝上町で開催したときのタイトルは、「本と珈琲とミルク」。各地で異なる本屋とコーヒー屋が出店し、〇〇には地域の特色を活かしたテーマが入ります。業務以外のライフワークであるため、地域おこし協力隊の活動費は使っていません。「息抜きみたいな部分もあるんです。他の町で活動することで、自分の町のことも分かるみたいなところもあって」。

 

さらに「コミュニティ大工」を目指して、地元の建設会社に弟子入りし、大工の技術を教わっています。田崎さんの言うコミュニティ大工とは、地域に必要とされる小回りが利く個人の大工のこと。たとえば店舗を改装して新規開業を目標とする時に、限られた資金の中でどんなお店を作りたいのか、オーナーと一緒に考えられるような。田崎さん曰くそんな大工の在り方が、田舎では今とても求められているのだとか。「家を建てたり、リノベーションしたりするだけの職人ではないんです。空き家の改修をメインに、工事した後も関わる大工になりたい」。

 

かつて林業が盛んな時代があった上川町。もう一度林業を面白くしたいという人が増えているそうです。田崎さんもその仲間に加わり、町有林から出る材を使ったものづくりにも挑戦しています。

 

大学時代は建築学科で空き家の改装プロジェクトなどにも関わっていた田崎さん。気づけばあの頃学んでいたことを手を動かして実践していました。「本当にやりたいことができてるっていうことかも」と嬉しそうに笑います。

 

いらないプライドを剥がしてくれた先輩の言葉

田崎さん

田崎さんが業務以外の活動に積極的に取り組んでいるのは、すでにローカルで活躍している諸先輩たちのある一言がきっかけでした。協力隊として上川町にやってきて3ヶ月目のこと。「お前、やった気でいるだけで、全然なんにもやってないぞ。何でもいいから始めてみろ」と刺さる言葉を投げかけられました。行動が伴った、尊敬する先輩に言われたからでしょうか。田崎さんも心のどこかで、必死になっていない自分にモヤモヤしていたのかもしれません。プライドを剥がしていかなければならないと決意した瞬間でした。

 

「協力隊になる前にこの町に来ていたときは、自分は楽しませてもらう側だったんですよね。協力隊になったからには、一緒に楽しみを作っていかなければいけない。自分で何かをおこさないといけないって気づかされたんです」。

 

大好きなこの町のみんなと、これからも一緒にいたい。そんな目的で上川町に来た田崎さん。「大好きな町があり続けるためには、むしろ町を引っ張っていける存在にならなければ」。心を改め、月に1回イベントを開催すると自ら宣言し、そのとおり実行してきました。

 

必要とされることが増え、楽しくなってきた2年目

田崎さん

業務とのバランスもとれるようになってきて、自分が必要とされることも増えてきた2年目。活動の成果が徐々に現れてきました。マルシェイベントの進行は板についてきて、継続のために収益化を模索しているところです。大工として声をかけられる機会も増え、上川町の中心部にあるビルを泊まれる複合施設にリノベーションする「ANISHINDO PROJECT」に大工の一人として参加することになりました。

「上川町は地域おこし協力隊として活動しやすい町だと思います」と田崎さん。主に一期生として入った先輩たちが、地元の人たちとの関係を深め、道をつくってくれていたから。そして、上川町の町長が「地域おこし協力隊は町の未来のために必要な投資」だとはっきり町民に伝えてくれているから。

 

それに甘んじることなく、個人的に町に馴染む努力は惜しみません。商工会青年部に顔を出して、地域のお祭りに参加するのはもちろんのこと、飲み会や会議にも積極的に参加しています。「全員が地域に根差す必要はないと思ってるんです。だけど、町の人と関係を築いた方が、より楽しく暮らせるよってことは言えます」。

 

地域おこし協力隊は、目的ではなく手段の一つ

田崎さん

「具体的にやりたいことがわからなくても、協力隊になってもいい」と自らを振り返って言います。「地域おこし協力隊って、手段でしかないので。だけど、手や足を動かしながら、任期中にやりたいこと、できることを見つける努力はする必要があると思います」。はっきりとしたやりたいことがないまま、上川町の人に惹かれて地域おこし協力隊になった田崎さん。活動を続けながら、地域やコミュニティの中でやれることを自分で見つけてきました。

 

ゆくゆくはリノベーションしたビルの隣で、コミュニティ大工をやりながら古道具や暮らしにまつわる雑貨を取り扱うお店を開きたいと考えています。「遠くを見据えた挑戦ができるのは、地域おこし協力隊としての一定の収入があるからこそ。収入を得ながらこの町で暮らす道を探せるっていうのは、本当にありがたい制度だと思います」。

田崎さん

PORTOの商品棚は、田崎さんが町有林を使って制作したもの

 

上川町の交流スペースPORTOには、取材当時も東京のメディアやアウトドアブランドの視察団体が訪れて賑わっていました。短時間の滞在だけでも、この町の熱量を感じます。「ANISHINDO PROJECT」が成功し宿泊施設ができれば、上川町の移住者はこの先より一層増えていくでしょう。空き家の利活用が待たれる上川町のこれからに、なくてはならない人として活躍する田崎さんの未来の姿が見えます。