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(八雲町)藤谷 周平 さん

価値観を見つめ直し出会ったこの町と人のため、進化し続ける

藤谷さん

ジリジリと太陽が照りつける真夏日の八雲町。噴火湾側から山の方へ車を走らせること約十分。風にはためく「ペコレラ学舎」と書かれたのぼりを見つけました。その日の太陽と同じような笑顔で迎えてくれたのは、ペコレラ学舎の運営に携わる八雲町の地域おこし協力隊、藤谷周平さんです。

 

廃校をリノベーションしたコミュニティ施設、ペコレラ学舎

藤谷さん

 

ペコレラ学舎は、八雲町の山中にある廃校をリノベーションしたコミュニティ施設のこと。校舎はコワーキングやワーケーションの施設に、校庭はキャンプやグランピング用に自分たちでDIY。八雲の自然にふれあいながら、さまざまな体験をすることができる場所です。藤谷さんはそこの運営スタッフとして、新しい企画を考えたり、経理を担当したりと、中心メンバーとして活躍しています。

 

「みんなでつくる」ことを大切にしているペコレラ学舎。この日も東京や函館から10人以上の大学生がインターンで集っていました。山中に響く賑やかな声を背に、ここにたどり着くまでのいきさつを教えてもらいました。

 

コロナ禍の都心暮らしを経て、見つめ直した自分の価値観

藤谷さん

ほんの2年前まで東京都心の企業で働いていた藤谷さん。コロナウイルスの影響で、在宅でのリモートワークを余儀なくされていました。「ワンルームのすごく狭い部屋で、起きてる間はずっとパソコンと向き合って、オンオフの切り替えもできない」。在宅勤務に終わりが見えないまま、外に出れば”密”を気にしなければならない。東京でその生活を送ることは、藤谷さんにとって耐えられないストレスでした。

 

そんなとき頭に思い浮かんだのは、高校生まで過ごした北海道の景色でした。人と“密”になることのない、だだっ広い空と大地。「北海道に戻りたいなって思うようになりました」。Uターンするといっても、さまざまな選択肢がある時代。リモートワークのまま東京の会社に勤めたり、北海道の会社に転職する道もあります。藤谷さんはこの機会に、自分がどんな働き方をしたいのか、どんな価値観を大切にしたいのか、一度しっかり考えることにしました。

 

群馬で過ごした大学時代、地方創生やまちづくりを学んでいた藤谷さん。さらに子どもの頃から自然が好きで、都会より田舎で暮らしたいという思いもありました。都心でのリモートワークの反動もあったのでしょう。「思いっきり空気が吸い込める北海道の田舎で、身体を動かしながら、地域のために働きたい」。ぽろりとこぼれた本音の先にあったのが、地域おこし協力隊という制度です。

 

やりたい仕事と追いたい背中があった町、八雲町

藤谷さん

八雲町を選んだのは、やりたいことと重なる今の求人を見つけたことと、この町でまちづくりに取り組んでいた赤井義大さんとの出会いがあったからでした。赤井さんは八雲町の出身で、同じく東京からUターンして地域コーディネーターとして活躍している先輩です。重なる部分が多い赤井さんの言葉と行動には、どんなものより説得力を感じたと言います。最後は赤井さんの人柄で、八雲町を選びました。

 

2022年に八雲町にやってきて、これまでとは何もかも正反対の暮らしがスタートしました。2年目を迎えた今の感想は、「想像以上に最高」。

 

農家や酪農家など、これまで出会えなかった人と知り合い、農作業を手伝い一緒に働く経験は東京では得られないもの。頻繁に声がかかるという町の人との飲み会も、新鮮な学びに満ちていました。1年目に赤井さんの紹介でさまざまな人と出会い、協力してくれる人が増えた2年目の今、「活動の幅が広がってきてさらに楽しい」と語ります。

 

できることが増え、楽しみが増す2年目

藤谷さん

現在ペコレラ学舎で主に取り組んでいるのは、サウナ小屋のDIYとワーケーションの企画です。藤谷さんが企画する滞在プログラムの中には農作業の手伝いなども含まれており、そういう意味でも町の人の協力は不可欠。親身になってくれる人たちに支えられながらも、「自分たちの活動を知ってもらうにはまだまだ努力が必要」と感じる場面もあると言います。

 

活動を続けるなかで生まれるそういった悩みを共有するため、藤谷さんは道南エリアの地域おこし協力隊をつなぐ「道南ネットワーク」を立ち上げました。現在12名のメンバーが所属しており、課題を出し合って役場や振興局にフィードバックしたり、一緒にイベントを開催したりと、横のつながりを生んでいます。

 

八雲町を越えて道南エリアへとコミュニティを広げるなかで、この地域でこれからも一緒に働きたいと思える仲間ができ、愛着も増しました。藤谷さんは迷いなく晴れやかに言います。「協力隊の任期が終わったあとも、この町に住みたいと考えています」。

 

やりたいことに集中できる環境が揃う町で

藤谷さん

そもそも、「よっぽどのことがない限りは継続して町に住み続ける」ことを決めてから移住したという藤谷さん。きっとその覚悟が、活動を円滑にしている部分もあるのでしょう。「周囲の人に恵まれています」と笑みをこぼします。人間関係だけでなく、「暮らしやすさも期待を超えていた」と言います。

 

八雲町は農業だけでなく酪農も漁業も盛んで、町のもので食卓が揃うほど食が豊かな町です。大きな病院やスーパーもあり、暮らすのに困ることはありません。ここには、自分のやりたいことに集中できる環境がすべて整っていました。これからの任期で藤谷さんがやりたいことはただ一つ。「今やっていることを進化させること」。

 

ペコレラ学舎を続けるために、進化し続ける

藤谷さん

ペコレラ学舎では収支にまつわることも担当している藤谷さん。実際に1年間やってみて分かったことは、キャンプやワーケーションで黒字化させるのはとても難しいということです。先輩である赤井さんに相談しながら、たとえば観光と移住を組み合わせ、対象となる人の間口を広げるなど、さまざまな方法を試しているところです。

続けるためには、変わり続けないといけません。自分の頭で考え、トライ&エラーを繰り返し進化することで、ペコレラ学舎が継続できる道を探る。それが今、藤谷さんが一番取り組みたいことなのです。

 

地域に溶け込むための努力も必要

藤谷さん

その道の先にはいつか、自分で何かの事業をやってみたいという思いもあるそう。自分と同じように地方で何かやりたい人のためにも、地域おこし協力隊の制度はおすすめだと語ります。

「いきなり田舎に飛び込んでくるのはハードルが高いけど、地域おこし協力隊という制度を使えば、町の職員として見てもらえるんですよね。そうすることで、町に入り込みやすいというのはあると思います」。

 

もちろん看板を身につけるだけでなく、町に溶け込むための努力は惜しみません。誘いには基本的に断らずに顔を出し、町のお祭りにも参加。農家で人手が足りないと聞けばすぐに駆けつけます。そういう姿を見て、八雲町を盛り上げたいと考える地元の人とのつながりも増えてきました。

 

互いにとって、学びと気づきのある場所へ

藤谷さん

 

ある時、サウナ小屋のDIYを協力してくれている地元の大工さんに言われました。「若い世代と関わって何かやるっていうのは、自分にとっても新しい発見があって楽しいね」。

 

思いもよらないうれしいひと言に、気づきをもらった瞬間でした。自分たちにとっても町の人にとっても、互いに学びと発見がある。「ここをもっとそういう場所にしていきたい」と笑顔で語ります。

 

都会暮らしの違和感を丁寧に見つめた先で手にした、八雲町でのかけがえのない日々。藤谷さんがペコレラ学舎を進化させていきたいと語るのはきっと、ここで出会った人と町を大切に想うからこそなのでしょう。